レッスン便り

レッスンスタイルの多様性を探る

コロナ禍の音楽活動

コロナ禍は生活全般に大きな影響を及ぼしました。
音楽活動も一時期は完全にストップ。その後は制限付きで細々と再開し、最近になってようやく大規模なイベントが催されるようになりました。

対面レッスンは、本来防音対策された室内で行うものですから、実施する際にはかなり神経を使いました。消毒、換気、パーテーション、マスク(フェイスガード)は必須。一部はいまも継続中です。

リモートへの取組み

「対面」が極力排除されても、自分の活動において「対面」はとても重要な要素。

演奏する、ピアノ、ボイストレーニング、アレクサンダーテクニークなどのレッスン、、同じ空間にいるだけで伝わるものも多くあります。

けれど、コロナ禍でそれがまったく叶わない状況に直面し、「ゼロよりはイチ」という気持ちで初めてリモートを取り入れました。
半信半疑で始めましたが、拙くともやってみれば「リモートだから実現したこと」もありました。

遠くとつながる

私個人としていちばんのメリットは遠距離を苦にせず繋がれることでした。

・海外在住のアレクサンダーテクニークの先生方とのグループワークが実現。
これまでは自分が海外に出向くしか方法は無く、かなり困難なのでほぼ諦めていました。
でもリモートなら一瞬で可能に!
(コーディネートしてくださった方に感謝♪)

・時間の確保や遠距離の移動が難しい時でも、希望講義を聴講できる。
国内でも都合を合わせられず足を運べないことは多々ありますよね。
ギリギリ聴講する時間さえ作れば参加できる、というのは本当にありがたかった。
講義形式なら、リモートでなんの問題もありませんでした。

実技系レッスン

しかし、「音」を扱うレッスンなどでは、リモートの限界を感じました。
どうしてもタイムラグや音質の悪さが目立ちます。

機材を工夫して、片方(先生側)の環境は良くなっても、相手(生徒側)はスマホの小さい画面で見聞きしている状況が多いため、もどかしさの方がまさってしまいます。

結局、私の自宅生徒さんはピアノもヴォーカルも対面レッスンをご希望、継続しました。

今後につながる工夫や気づき

このように「音」に限って言えばデメリットは多いのですが、それ以外ではメリットもありました。

・生徒さんの練習環境が明確になる

私は、生徒さんの体の使い方で気づいたことがあると、普段どのような環境で練習しているか尋ねることがあります。
私とレッスンしている時間は全体から見ればほんの一時。それ以外の大半をご自宅の楽器で練習なさっているわけですから、良くも悪くも弾きグセはその間につきます。

a.楽器の種類(グランドピアノ、アップライトピアノ、電子キーボード)
b.その状態
c.椅子の高さ
d.椅子と楽器の距離
e.楽器の周囲の環境

どれも演奏に関係します。
生徒さんのご自宅と繋いでリモートレッスンをすると、知りたい情報が一目瞭然!

・動画や音を録音する

タイムラグの解決策として、事前にこれらをやりとりしていた方も多いのではないでしょうか。私は生徒さんというより、自分が録音や撮影に少し慣れました(苦手なのは変わりません)

三人四脚レッスンスタイルの提案

さて、ここまでは長〜い前置きで、本当にお伝えしたいことはこの先。

それは一本の電話から始まった

ある日、ピアノ講師の知人から相談を受けました。
「生徒のMちゃんがリコーダーを練習しているが、低音がうまくでない」

聞けば、近々リコーダーのテストがあって、その後開催される校内音楽会の楽器選考オーディションも兼ねている。Mちゃんは小5で課題曲は難しいが、本人も絶対合格したいようだ、とのこと。

町のピアノの先生は、ピアノだけ教えていればいいというものではない。
ピアノ以外の楽器(今回のようにリコーダーや鍵盤ハーモニカ、打楽器)学校行事に向けてのピアノ伴奏、音楽から離れて子どもの避難所、息抜き、安らぎ的な場所など、役割は多岐にわたる。

Mちゃんの事情を聞いたからには何かお役に立てないかと、奥にしまい込んでいたリコーダーを引っ張り出し、吹きながらあれこれ考えました。

アレクサンダーテクニークの教師として

子どもにアレクサンダーテクニークについて直接話す機会は、ほぼありません。
ご希望があればいつでも喜んで!
なのですが、通常は「自分が使うことで伝える」を選択しています。

今回はMちゃんと、長年ご指導なさっているK先生、そこに私が加わるので、アレクサンダーテクニーク教師としてK先生とは違うアプローチを探すよう心がけました。

まず基本的なことを整理する
リコーダーという楽器→息が重要→呼気スピードと量→体勢→吹き口と口腔内etc.
低い音を出すのに必要なことは何か?
それを妨げていることは?

私なりに情報を整理して、息を吹き込む前のことなども含めK先生に考えをお伝えしました。数回のやりとりの間に、Mちゃんが演奏している動画も送っていただきました。

子どもの持つ力を引き出す

 

左:改善前、  右:改善後

 

 

 

私のアドバイスで役に立ったのは息の流れに関してでした。
Mちゃんがイメージしやすいように、イラストを描くのは苦手だというK先生を説得し(笑)吹き口の形や息の通り道、流れを視覚化してもらうようお願いしました。

リコーダーの吹き口は少し潰れたかまぼこ型になっています(穴の形はリコーダによって違うかもしれません)
低い音のために必要なゆったりたっぷりとした息のために、吹き口下側の直線面から管の壁を伝って下の方まで息が流れていくイメージを持つようにします。
反対に高い音は上側の曲線面目掛けてやや鋭く息を当てると出ます。

K先生のイラストが功を奏し、この僅かな違いを捉えることができるようになったMちゃん。息の流れがコントロールしやすくなり、気持ちの余裕からか構えもゆったりとして、上腕部やひじ関節の自由度も上がり、指の動きも滑らかになりました。

私が10くらい捻り出したアドバイスの1つか2つを伝えただけで、みるみる問題解決。
大人が手を貸したのは少し絡まっている糸を解してあげただけ。子どもの持つ力は素晴らしいです。

想像してください、改善後のMちゃんのリコーダーから素敵な音が聴こえています♪
オーディションも落ち着いて演奏できて、結果も良好だったと報告がありました。
いやぁ嬉しいですね〜🎶

三人四脚、AT視点の有効性を生かす

長い前置きの理由は、私の気持ちが変化するのに必要な時間がそこにあったということなのです。
不自由さからやむをえず導入したリモートレッスンがなければ、相変わらず生演奏以外の選択肢を持ちづらかったでしょう。文字や録画のやりとりでレッスンが成立するとは考えてもいませんでしたから。

さらにMちゃんのレッスンはその応用編とでも言いましょうか。
日頃そばで見守っているK先生とタッグを組むことで、より良いサポートを提供でき、思いがけず充実したレッスンになりました。

レッスンの質を上げるために、先生ご自身が講習やレッスンを受け(input)
そこで得たものを生徒さんの指導に生かす(output)のはよくあること。
しかし使い所がわからなかったり、見逃してしまっていたら?

自分もそうですが、一人の生徒さんとお付き合いが長くなると、信頼関係は深まりますが、近すぎて見落としてしまうことがどうしても出てきます。
そこに別視点を持った第三者が関わることで、いつものレッスンがグレードアップ!
先生ご自身が得たものを十分に生かすことができるのではないかと思うのです。

例えば今回
私なりの考えをK先生にお伝えしました。

それを
①K先生がご自身で咀嚼
②さらにMちゃんに必要なことを抽出
③わかりやすい言い回しにして、K先生の言葉でMちゃんに伝える

という行程。
私とMちゃんだけでは足りません。
K先生ご自身の研鑽と、長年積み重ねたお二人の信頼関係あってこそ。

まさに三人四脚だから成立したレッスンだったと思います。
新しいレッスンスタイルを見いだせた気がしました。

もちろん最終的には、K先生の言葉を受け止め、考え実行したMちゃんの頑張りに拍手ですね👏