レッスン便り

<トランペットのレッスン>29歳会社員Kさん、トランペット愛好者

アレクサンダーテクニーク的視点からのレッスン

今回のレッスン便りは私の専門分野の楽器でなくても、アレクサンダーテクニーク的視点からアドバイスが可能です、というお話から。

Kさんはトランペットを始めて4年ほど。全くの初心者からスタートしました。週1ペースで(トランペットの先生の)個人レッスンに通い、今は16分音符の速いパッセージや、低音から高音への跳躍などを含むエチュード、いろんなジャンルのスタンダード曲を練習中です。

「専門楽器でもないのにレッスンできるのか?」アレクサンダーテクニークを勉強し始めた頃は私自身が「そんなことは考えられない…」と思っていました。先輩方に「出来るようになるから」といくら励まされても(?)なかなか信じられなくて。けれど、今になってみるとその通りだと思えるようになりました。もちろん奏法などの専門的知識は楽器を勉強なさっているご本人のほうがよくご存知でしょう。けれど実際に目の前で演奏していただくと、生徒さん自身が、楽器が、私に多くの情報を投げかけてくれます。演奏に必要な要素はたくさんあるので、さまざまな角度からアプローチが可能です。また音楽には楽器が異なってもある程度の共通言語がありますので、それらを踏まえて、生徒さんと楽器双方向の働きかけがスムーズになるようにお手伝いすることができます。

息が続かない悩み

Kさんは最初に練習中のエチュード冒頭を吹いて下さいました。練習に根気よく取り組んでいらっしゃるのはよくわかりましたが、ブレスに何かしらの違和感を覚えました。Kさんにも自覚があり「息が続かない、苦しい」とおっしゃいます。聞けばこのところお仕事がとても忙しくて、日中も疲れやすく、眠りも浅い気がする、とのこと。

Kさんに限らずコロナ禍の影響で、働き方がこれまでと違ったり(デスクワークが増える)日常生活でも(あまり声を出さないようにするなど)知らず知らずのうちにブレーキをかけ、全体的に不活発な傾向、停滞気味に陥ってしまうことが少なくありません。そのせいなのか、呼吸や発声に関して以前より元気がないと感じる方が、私の周りには多いように思います。

Kさんの場合、直接の原因はわかりませんが、少なくともこの日は、驚くほど呼吸に必要な動きが少ないことが見てとれました。この状態では息苦しくて当然です。
そこで一旦楽器を脇に置いていただき、呼吸のことを(頭ではなく)体で思い出してもらうことにしました。

体は動きたがっている!?

よほど日々のお仕事がハードなのでしょう。日常的に体を固めて踏ん張っていると思われるようなカチコチ度合い。。以前レッスンした時に比べて、カラダ各部位の動きの自由度が著しく下がっていました。そこで足首、膝、股関節、腕まわりを同時に動かす”グニャグニャ体操”などをしばらく続けてみると、少しずつ各部位の動きや連動性が戻ってきました。すると、ご自分でも(体がこうしたい!と指示を出しているかのように)アイデアが湧いてきて”背もたれ付きの椅子にダラ〜っと座りながらの呼吸”を自発的に試されたりしていました。
呼と吸は切れ目ないひとつの輪のように循環します。さらにKさんの様子を観察していると、呼と吸のバランスも徐々に改善、自然な流れがでてきました。

この辺りまでほぐしてから、もう一度楽器を手に取っていただきました。
(アレクサンダーテクニークのレッスンでは楽器を持つことだけでも山ほどやれることがあるのですが、今回は先に進みます)

アンブシュア、息の流れ、腕、そして全体

はじめに書いた通り、私には自身が体験した奏法に関する情報がありません。その点では(ゼロからスタートしたとはいえ)数年間練習を積み重ねてきたKさんの方が私の先生なのです。現時点で私にできることは、Kさんが持っている情報を整理すること、そして演奏のため本当に必要なことを、ご本人の意図通りに実行できているかを観察すること、です。

今回改善された息の流れの邪魔をしないように気配りしながら
a.主に頭蓋骨と脊椎との関係性
b.アンブシュアの探求
c.腕の使い方(ピストン操作含む)
などに取り組みました。

a.に関しては、アンブシュアに気を取られるとつい首やその周辺が固くなり動きが止まってしまうので、Hands onでサポートします(ご本人も気付きにくい部位です)この部位に限ったことではありませんが、不要な緊張が取れると息の流れも良くなり、音が明らかに変化します。

b.では、ご自身がやっているつもりの動きと、実際の動きにかなりのズレがありました。

c.については、体全体を意識しつつ、楽器を持つ左腕と、ピストン操作もする右腕の働きについて整理、新しい使い方の実験をしました。

ざっと書き出しましたが、実際のレッスンではもう少し細かく丁寧にひとつづ取り組んでいます。しかしこれだけの内容、とても1回のレッスンで掴み切れるものではありません。でも十分な収穫はありました。

「ゼロ」より「イチ」

私がよく生徒さんにお伝えする事ですが、これまで全く考えたこともなかった「ゼロ」と、へぇ〜そんな視点があるんだ!と気づいた「イチ」では雲泥の差があると思うのです。その時すぐに成果が現れなかったとしても(ほとんどの場合そうです、笑)ものすごく広がりと可能性を感じませんか?ある程度時間をかけて手に入れたものは、その分深みも味わいも増します。欲張りすぎず「ゼロ」より「イチ」で一歩ずつ楽しみながらいきましょう♪