レッスン便り

リスト作曲『愛の夢』に再挑戦!〜その2

会社員Hさんのレッスンより

左手のアルペジオ

Hさんが4回目のレッスン時に「ここが、難しくて…全然弾けないのよ~」と仰った箇所があります。左手の分散和音(44−46小節)です。音域も広く、パターンも不規則なアルペジオで、実際弾いていただくと、確かにかなり弾きづらそう。
もう少しこの箇所の解説を加えますと。。
右手も音数の多い和音(3音ないし4音)でメロディを歌うので、Hさんのように、それほど手の大きさに余裕がない方にとっては、なかなか手強い部分です。両手で同時に弾くとさらに大変さが倍増するのは目に見えていたので、とりあえず片手づつ、どうすれば楽に弾けるかを探してみることにしました。

実は以前から私が個人的に気になっていた事と、たまたまHさんが自己申告してくださったこの箇所がつながって、改めて考えさせられました。

指くぐり?指またぎ?指越え?

音域の広い音階やアルペジオを弾く際に、片手につき5本しか指がないので、それを越える部分は何らかの方法でカバーしなくてはいけません。ピアノ初心者は最初1〜5本の指で弾ける範囲の練習からスタートし、徐々にカバーできる音域を広げていきます。
そのはじめの一歩の技術として【指くぐり】【指またぎ】【指越え】を習うのです。

私も小さい頃この方式で教わっていると思います(すっかり忘れている)
物心ついてからは、この動かし方というより、音が凸凹しないように気をつけて弾くよう注意されたのは覚えています。それから、あまり気にせず何となく月日が流れ、自分の生徒さんにも同じようなことを教えつつ、ある時、ふと思いました。「これって何??」

情報を更新する

【指くぐり】【指またぎ】【指越え】という言葉はいつ頃から使われ始めたのでしょう?由来、経緯が気になります。私の手元にあるピアノ演奏法(翻訳本、中上級者向け)6冊には全く出てきません。
初心者の時は一見わかりやすい言葉かもしれませんが、そのまま情報が更新されないと、誤解を生みやすく弊害もあると思います。Hさんの場合はまさにそれでした。

親指の動き+αでスムーズに

親指は自由度の高い指です。手のひらに近づく、離れる動き。人差し指に近づく、離れる動き。それらの組み合わせ。他の四指との位置関係から物を握るときにも大活躍します。
【指くぐり】【指またぎ】【指越え】という時も、このいずれかの動きをしていますが、それだけで、滑らかなアルペジオや音階が弾けるわけではありません。

Hさんのレッスンに戻りましょう。

彼女の弾いている様子を観察して、真っ先に目に入ったのは極端なまでにしっかりとした【指またぎ】【指越え】【指くぐり】でした。その動きをしようとするたび、親指も手全体も緊張して流れが止まってしまうので、その次の準備は当然間に合いません。「ちゃんと指くぐり(指越え)して弾こうと思ってるんですけど」はい、しっかりなさっています。しかしこの箇所では他に優先順位の高いプラスαが必要です。

まずご提案したのはグルーピングです。ここは(先に書いた通り)音域が広く不規則パターンのアルペジオですが、言い方を変えると広い音域を自由にのびのびと駆け巡って、右手のメロディに負けず劣らず歌っている所でもあります。ただの8分音符の羅列ではなく、小さなグループを作って、言葉を連ねるように扱うと、とても音楽的で、なおかつ弾きやすくなります。

Hさんはこのヒントだけで、生き生きとうねるような左手アルペジオが弾けてしまいました。ご本人も笑ってしまうくらい、あっさりと。おそらく相当この部分を練習なさっていたので、方針転換してもさっと対応できたのだと思います。
「あら、弾けるわ。さっきの(最初の演奏)何だったのかしら?」(いえいえ、私が知りたいです)

アルペジオを滑らかに弾くコツはまだあるのですが、今回はこれで解決したので、ここまで。曲の2/3まで譜読みが進みました。残り1/3。次は何が起こるかワクワクします🎶

https://mikiohtsuki.com/21−10−28/